思いがけないバーケーションが舞い込んだ朝には
幻に会いたくなって北へ 駆け抜けていた.
美Fはずれの別れ道で車を止めた頃にはもう真夜中 ..
ミッドナイトの空気が造る冷えきった闇のヴェールに包まれ
どちらへ行こうか ..と 迷ってしまった.
昔バラした イトウの事が気になっていたからかな. 朝やけの見える頃には
想いでの大河を臨んでいた. 歌 ~oノップをのんびりと下って.
フックをつつくあたりを楽しみながら この景色も随分変わったな.. と独り言を言ってみる.
シートの上にほったらかしておいた 気の抜けたジンジャーで喉の熱っぽさを冷ますと
再び、ひと気のないダークな大河を降りていった.
わかっていたんだ. いつか.ここへ帰ってくるって.
昼下がりの太陽が気だるい 乾いた風の吹く 懐かしいロシアン.カーブの河原
あの頃と時間が繋がっている .. 何も変わっていないような気がする.
深透な流れに 吸い込まれていったフライの残像を見つめて
ひとかけらの欲も持たずに、遡行していくと
およそ鱒と呼ぶには似つかわしくない動きをした黒い影が
スローモーションでラインの下を迂回していった. グンッ!! rodはのされたまま
動かない! .. ためらいなく .. 鋭くrodを跳ね上げた!!
ラインを巻き込みガッチリとホールドして
もう一度、しっかりとrodのmidをあわせる.
ザザーッ!! 流れを裂くような波音をたてて幻の鱒がラインを引き回す.
やったぞ!! 時を越えて繋がった美しい幻が 糸のムコウから野生の鼓動を伝えてくる
不即不離に時を費やし橋の下までつきあった.
見えた!! 待ち焦がれた微細な斑点 赤みがかったでかい尾びれ!!
風貌さながらに大きく水面を持ち上げると グイグイと頭を振って走りだした!
はずされる!! よせてしまうしかない ! 流れに入って思い切り手を伸ばす.
届かない! 届いてくれ! ザバザバ!バシャーン!! 満身を込めたエラあらい ..
ぶ厚い.フックを綺麗にはずした 幻の鱒は泰然と身を翻して 去っていった.
沈みかけていく残陽にさらされ チリチリと散らばっていくパルスの音を
何処か人ごとのように耳にしながら
いつのまにか かすれてしまった声を持て余した私は
..また いつか 帰ってこなくちゃいけないなぁ .. と呟いてみるしかなかった.
ケニー.ドーハム .. アローン.トギャザー